我に返った頃には、もう遅かった。

乱れた髪、服、身体。

熱を帯びた身体が、急に冷めていくのが分かった。同時に血の気も引いていく。


一体、今、何を……


飛び退くと、思考回路が停止し、その場で硬直してしまった。

逃げるように、彼女は身構える。
彼女の顔は真っ赤だった。射し込む夕日と同じ色。


僕を見つめる目が、脳裏に焼き付いて離れない。

敵意とか軽蔑、悲哀でもない。怯えた目をしていた。静かに涙を流して。


「……っ」

散乱した服を手荒く着ると、彼女は逃げるように、部屋から飛び出していった。何も言わずに。

ぶつかった本の山が大きな音を立てて崩れ、床に再び腐海が拡がっていく。


半開きのドアも、身体に残る熱も、泣きそうな僕も、

全てが、リアルで、残酷だった。