少年少女リアル

 さっきまで遠くに見えていた鱗雲がもう近くまで迫っていた。
絵の具では出せないような色で、空を塗り潰している。
朱色を帯びているのに仄暗くて、憂いを誘う。

遠くのビルや建物は形だけが影になり、小さいオブジェのようだった。


哀愁の空は四角く区切られているのが、どこか台無しで、遠くに感じた。
かと言って、窓から顔を出す勇気などない。十一月の風は頬を刺すように冷たい。

こんなにも美しいけれど、僕が今こうしてぼんやりしていなければ、当たり前のようにこの景色を見過ごし、何も感じないまま終わっていただろう。
何よりも儚い芸術だ。


ふと、足音が近いのに気付いて廊下に視線を移すと、案外人影は近くまで来ていたものだった。
目が合っても、夏目さんは表情一つ変えず、取って付けたように首を傾げる動作をした。

「珍しい。こんな所で会うなんて」

「本当だ。何してるの?」

「小田切先生が掴まらないから、ここじゃないかと思って」

顎で美術準備室の戸を指す。

「当たり。中にいるよ」

「曾根君は?」

「僕は、連れ待ち」

「先生、取り込み中なのかしら」

「うーん、どうだろうね」

夏目さんは一瞬不服そうな顔をして、それから、僕の隣りで壁にもたれ掛かった。