先の背中に足を止める気配はない。
僕など御構い無しに先へ先へと進んでいく。
それもそのはずで、僕の声は吐息混じりの、呟き程度にしかならなかった。
溜め息とほぼ大差なかった。
聞こえているはずはない。
「向井さん……!」
届かない。
さっきよりも声を出したつもりだったけれど、全然足りない。
止まれ。
止まってくれ。
向井、ともう一度口ずさんだところで、頭に声が響いた。
――奈央
僕の声。
分からない。
僕が発していないのに、僕自身の声など、聞こえるはずがない。
もしかしたら、加治原の声の幻聴だったのかもしれない。
それでも、その時は、疑いもなく、僕自身の声だと思った。
「……奈央」
口ずさむ名前に、泣きそうになる。
初めて唇を滑る名前が、痛いほど、胸に染み入ってくる。
「奈央、向井奈央……っ!」
もう一度、僕は千切れそうな声でそう呼んだ。
崩れ落ちそうな膝がぶるぶると震えて、そんな様子でも、彼女が振り返るまで、まだ崩れるわけにはいかなかった。
彼女の後ろ姿は、足の歩みと共に髪が揺れ、ほんの少し肩を緩めた。
振り返る。ゆっくりと。
ぼんやりしていた目は尻目に僕を見つけると、次第に見開いて、それから、ほんの一瞬、泣きそうに見えた。
僕など御構い無しに先へ先へと進んでいく。
それもそのはずで、僕の声は吐息混じりの、呟き程度にしかならなかった。
溜め息とほぼ大差なかった。
聞こえているはずはない。
「向井さん……!」
届かない。
さっきよりも声を出したつもりだったけれど、全然足りない。
止まれ。
止まってくれ。
向井、ともう一度口ずさんだところで、頭に声が響いた。
――奈央
僕の声。
分からない。
僕が発していないのに、僕自身の声など、聞こえるはずがない。
もしかしたら、加治原の声の幻聴だったのかもしれない。
それでも、その時は、疑いもなく、僕自身の声だと思った。
「……奈央」
口ずさむ名前に、泣きそうになる。
初めて唇を滑る名前が、痛いほど、胸に染み入ってくる。
「奈央、向井奈央……っ!」
もう一度、僕は千切れそうな声でそう呼んだ。
崩れ落ちそうな膝がぶるぶると震えて、そんな様子でも、彼女が振り返るまで、まだ崩れるわけにはいかなかった。
彼女の後ろ姿は、足の歩みと共に髪が揺れ、ほんの少し肩を緩めた。
振り返る。ゆっくりと。
ぼんやりしていた目は尻目に僕を見つけると、次第に見開いて、それから、ほんの一瞬、泣きそうに見えた。


