少年少女リアル

 僕の席には、鞄が雑に置かれている。
控え室から誰かが運んでくれたのだろう。まぁ、多分、佳月だ。

袋から着替えが飛び出している。
運んでもらったのはいいが、乱雑に扱うなよ、とつっこみたくなる。

平野さんはぶつぶつ文句を言いながら、僕の後をついてきた。止まる事なく、機関銃のように口を動かしている。

そもそも、こんなにベラベラ話すような人だったろうか。
親近感を持ってくれているという事か。

全部いちいち聞いているときりがない気がしたので、着替え始める事にした。
半分聞き流しながら、はみ出たカッターシャツをずるずると引っ張り出す。

「せっかく看板大賞取ったのに、本当に残念」

シャツを広げた手が止まる。

「看板……看板大賞、取ったの?」

「知らなかった?」

知っているわけがないだろう。さっきまで保健室で伏せっていたのに。
危うく聞き逃すところだった。

「あれって、全学年対象じゃなかった?」

「そう! 看板大賞だよ、凄いでしょ!」

「凄いでしょ!」と言われても、僕は実際手伝っていたからあまり実感が湧かない。
だけど、素直に嬉しい。

「……驚いた」

「飲食部門では賞逃しちゃったけど、看板で賞取れたんだからよかったよね! しかも、大賞!」

本当に、よかった。陰の努力が報われたような、そんな気がした。
喉の奥がじんと熱くなる。

向井さんは、案外大物なのかもしれない。

一人静かに、紙に線を描く彼女の姿が思い浮かぶ。


今になって、僕は教室に彼女の姿がない事に気が付いた。

「それなのに、奈央は帰っちゃったし、王路も帰ったんでしょ? 打ち上げに参加するかどうかくらい言えっつーの!」

平野さんは、はぁ、と声を出して息を吐いてみせた。