冴木はどうなったのだろう。僕がいないまま、一人で客引きしていたのだろうか。
そもそも、文化祭はどうなったのだろう。
色々な事が頭の中で渦巻く。

「平野さん、怒ってた?」

「いや。千暁が倒れたって聞いて、すげー心配してた」

「意外だ」

きっと、ひどく怒っているものだと思った。

「あいつは鬼かよ」

「鬼畜じゃないか」

「ひどい言い様だな」

微かに笑うと、佳月は疲れたと言わんばかりに背伸びをした。
ずっと、ここに居てくれたのだろうか。

「皆、もう帰った?」

「まだ六時過ぎ。後夜祭やってる」

「ああ……ごめん」

「別に。元から参加する気ねーよ」

まぁ、同じく、僕もそのつもりだったけれど。


足音の後、カーテンがさっと開けられると、四十代後半くらいの女が顔を出した。

「曾根君、起きたのね。気分はどう?」

「マシだと思います」

白衣を着ているから、おそらく保健室の先生だろう。
こんな教諭がいたかどうか、記憶にないけれど、それもそうか、僕は保健室にはあまり縁がないからだ。

「もう少ししたらお家に連絡しようと思っていたんだけど……。自分で帰れそうかしら?」

僕が頷くと、「そう」と目元に皺を寄せて、温かく微笑んだ。