「俺、店番してた子にちゃんと聞いてきたんだぜ」
口が塞がっていたので、何を?と目で尋ねる。
「ピロキチって、担任の名前らしい」
「そっちかよ」
普通は食べ物の方を聞くだろ。
「いや、何で分度器とか描いてるのって聞いたら、担任がさ、あの数学の山本弘吉なんだって」
山本弘吉は灰汁の強い教師だ。
授業中寝ようものなら、残りの授業時間はその生徒のために使われる。
本人曰く、それが教師の思いやりという物らしいけれど、僕には生徒への制裁としか思えない。要は寝なければいいわけだが。
「ピロキチって柄じゃないよな」
「だろー? あっはっは……俺、もう可笑しくなっちゃって!」
強面と筋肉隆々な体躯からは、漫画に出てくる体育教師を彷彿とさせる。けれども、実際の担当科目は数学なのだから、どうもしっくりこない。
彼が自分のクラスの生徒にこんなにも愛されているのは、かなり意外だった。
「そういえば、俺等のクラスはどうなってんのかねぇ」
「どうだろうね」
そういえば、昼過ぎに一度帰ったきり、自クラスへは戻っていない。
客引きはお気楽なものだ。


