途端にキャーと歓声が起こった。バンド名が読み上げられていたが、掻き消されて全く聞こえないほどだった。

何かあったのかとステージを覗いてみたが、特にハプニングがあった様子はない。個々がチューニングを合わせたりしているだけ。
冴木が客席に手を振ると、もう一度歓声が上がった。今度は女の声が圧倒的に多いようだった。

そんなアホな。

アイドルでもないのに、こんなに熱狂的なファンがいるのか。
この近辺で有名だという噂はどうやら本当だったらしい。


ギターが唸りを上げると、ピタリと音が止んだ。同時に客席のざわめきも静まる。

速い拍子を取ると、すぐに前奏が流れ始めた。激しい。

冴木が歌う。


鳥肌が立った。それは僕が風邪気味のせいだけじゃない。

英語で、集中していないと何を言っているのかは分からないけど、上手い。素直に上手いと思う。

楽器が上手いのか下手なのかは、僕には全く分からない。でも、メロディーやリズムは聴いていて心地いいものだった。
そんなレベルでしか良し悪しが判らなかったけど、それでも素直に良いと思ったし、皆が惹かれる理由も感覚的にわかった。


時々、楽しそうに八重歯をちらつかせながら歌う。

冴木は純粋に音楽が好きなのだと思った。


ステージに立つ冴木は、自分のクラスメートではなくて、すっかり別世界の人間の顔だ。

いつの間にか、僕は立って彼等の音楽に聞き入っていた。