「何で、どうして、そう無神経な事ができるんだよ」
視界が揺れている。涙を堪えているけれど、分からない。これが何の感情なのか。
「勘違いだって言ったはずなのに……何で、忘れてくれない?」
「……無理だよ」
「じゃあ、どうやったら忘れてくれるんだよ」
握り締めた拳が痛い。土壁を叩くと、突起した無数の山が皮膚を刺した。
「……勘違いするなよ。好きなんかじゃないんだよ。向井さんを好きにはなれない」
言い聞かせるようにそう言うと、語尾が震えた。泣きそうなのは、僕だ。
何の演出のつもりか、さっきまで唸っていた空がまた吠え始めた。
少し遠くだったが、光っては僕に野次を飛ばしてくる。
「……じゃあ、どうしてキスしたの?」
言葉が見つからない。
分からない。自分でも。
衝動でしかない。衝動以外に説明が付けられるものか。
「分かるだろ……衝動だよ、衝動以外の気持ちなんかない」
「そんなの、分からないよ」
「解れよ!」
「解りたくない……認めたく、ないよ……」
向井さんの目から、ぼろぼろと涙が零れていく。すぐに俯いてしまい、僕の角度からでは旋毛が露わになって見えた。


