「とにかく、風邪引いちゃうよ」
そう言い切らないうちに、僕の手を取り、彼女はハンカチを濡れた腕に当てた。
指先が触れる。
思わず、声が漏れそうになった。
どうして、そうも簡単に触れてしまうんだ。
僕が恐怖すら覚えているのに。どうして彼女は。
力の入ってなかった腕が強張っていく。
手首から肘へ。濡れた衣服がその上を隠す。首筋まで。
睫毛と共に視線が上がってくる。
視線は僕の首筋辺りで停止し、水を拭っていた手も止まってしまった。
白から真っ赤に染まっていく頬が、二人の体温の上昇を表しているようだった。
触れた肌が熱い。お互いに。
馬鹿野郎。気付くのが遅いんだよ。
雨では誤魔化せないほどに、近付いた距離になっていた。彼女の香りが嗅覚を擽る。
目が合ってはいけないと思った。
それなのに、僕の視線は動こうとしない。


