下足室の外は、雨空が遠くのビルまで広がっていた。雨足は弱まりそうもない。

女心と秋の空、とはよく言ったもので、昼前まではあんなに綺麗に晴れていたのに。今となってはこの様だ。
天気予報を信じて良かった。


あ。と、口が形を作ってしまったところで、動きは止まった。危うくも、声は出なかった。

しまった、と思う前に目が合った。合ってしまった。

「あ……」

向井さんは声を漏らすと、困ったような顔をした。


何だよ。まずいのかよ。

気まずいのは、僕の方だ。


「あの、明日……頑張ろうね」

僕が鼻を鳴らさないうちに、掻き消されそうなほど小さな声でそう言った。

「うん」

「じゃあ、また、明日」

雨宿りを、しているのか?
傘は持っていないようだが。

「じゃ」

彼女の横を通り過ぎる。

雨が降っていて、良かった。雨の匂いで満たされていて、良かった。


微かに過る体温に変な汗が滲む。沈黙が走るのを感じる余裕すら、僕にはなかった。