渡り廊下を抜け、下足室へ入ると、雨に混ざった泥の匂いがした。
文化祭前日だからか、ここも人足と声が忙しなく交わされている。

そんな中、僕は帰るのだけれど。


ロッカーへ辿り着くと、知った顔とばったり会った。

「夏目さん」

「もう帰るの?」

夏目さんは今から帰るという様子ではなかった。

「準備万端みたいだよ、調理班以外は」

「そう。いいわね」

夏目さんはロッカーから袋を放り出すと、抱えていた教科書の山をそこへ詰め込んだ。
それから再びさっきの袋を押し込む。

「夏目さんのクラスは、まだ文化祭の準備?」

そう、と素っ気のない返事が返ってくる。
悠長に靴を履き替えていると、擦れ違い様に「じゃあね、さようなら」とほんの一瞬だけ、愛想程度の笑いを目に浮かべて、すぐに去っていってしまった。

文化祭が明日にも迫ると、どのクラスも忙しいらしい。
彼女とは逆へ足を進めると、先を行く人はいつになく少なかった。