君だけしか映らない

「お疲れ様でーす。」


笑美がスタッフルームの扉を開ける。


「お疲れ〜。ふふ…見たわよ荒川ちゃん。」


「え?何をですか。」


「しらばっくれちゃって。さっきまで彼氏と一緒に歩いてたじゃない!」


そう言って楽しそうな笑みを浮かべて話しかけてきたのは同じバイトの鈴木さん。大学生だ。


「ち、違います!!彼氏なんかじゃありません!!」


最悪だ。バイト先の人に見られるなんて…!!恥ずかしくて消えてしまいたい。


「だって手繋いでたじゃない!」


「誤解です!!確かに手は繋いでいましたけど、あれは向こうが勝手に…。とりあえず付き合ってなんていません!!」


「え〜そうなの?でも彼すっごいイケメンだったよね!!あんなカッコイイ人と手繋げるなんてラッキーじゃない?」


「はぁ、そういうもんですか?」


「何そのリアクション!?手繋いでドキドキとかしないわけ?」


「ドキドキはしましたけど…。あの人はただ私をからかってるだけなんですよ。」


「出た!荒川ちゃんのネガティブ発言。」


「でも普通に考えてあんなカッコイイ人が私なんかを好きになるわけないじゃないですか。彼の周りってキレイな女の子がいっぱいいるし。」


「そうだとしても、もしもってことがあるんじゃない?」


「もしもなんてないですよ。この話はここまで。鈴木さん仕事始まりますよ。」


笑美は「え〜つまんない」と言う鈴木さんを促しスタッフルームを出た。