気づいたら、授業が終わり
先生が教室から出て行くところだった。


寝てたか。

退屈な古文。
教科書を片付けながら
顔に跡がないか触れてみる。
大丈夫。
鏡を取り出し
赤くなっている部分がないかを見ていると

「寝てたっしょ?」
同じクラスの千夏。
「見えた?」
「見てたよ~。菅野センセーにバレないかヒヤヒヤした!」
快活に笑う。

パーマのかかった茶色い髪。
短く裾上げしたスカート。
少しの化粧。
毛先を弄びながら話す千夏は、
学校では目立つほうで、
わたしとは相容れないように思えるが、
つかず離れずの距離が
それなりにうまくいっている。

「ヨシノ、次移動教室?」
そうだ。
「忘れてた」
慌てて鞄から地理の教科書とノート、地図帳を取り出す。
「相変わらずたくさんあるねぇ」
言いながら、資料が追加された小山に
ペンケースを乗せてくれる。
「ほとんど使わないんだけどね」

希少な文系地理選択。
地理の授業は気楽だ。
知っている顔はあっても、
話しかけてくる人はいない。
高校3年の夏休み前。
理系の生徒はみんな
受験のために必死だ。


退屈な1日が過ぎていく。


昼休みは、千夏はわたしを誘わない。
わたしが断ることを知っているから。

ひとりで屋上にのぼり、
また気楽な時間を過ごす。