問題はどのタイミングでこれを渡すかだ。
彼女はカウンターの中にはほとんどいないし、フロアを歩いているときも、いつも必ず仕事をしている。
いや、スタッフなんだから仕事しているのは当たり前なんだけど…。
とにかく隙がない。
『そろそろ行こうか。』
そんな事を考えていると、隣りの席に座っていた女性客が席を立った。
『そのままでよろしいですよ。こちらで片付けますので。』
聞こえてきたのは紛れもなく、彼女の声だった。
思わず振り返ると、彼女はすぐ隣のテーブルを片付けて拭いていた。
周りを見れば、ほかのスタッフはこっちを見ていないし、混んでいるせいか、こっちを見ている客もいない。
今がチャンスー…。
そう思った時には、俺は彼女が拭いていたテーブルに、握り締めていた紙を差し出していた。

