「あっ」
 佳奈子は、思わず声を上げた。
 突然、ポケットのケイタイが動き出した。
 慌てて取り出して見てみると未来からの呼び出しだった。
 佳奈子は大きく深呼吸をした。
 「もしもし・・」
 「なんだ?」
「え?」
 「今、かけただろうが」
 不機嫌そうなユウスケの声に、佳奈子は思わず苦笑した。
 「なにが可笑しいんだ?」 
 「だって、文句ばっかり」
 「当たり前だろうが。いたずら電話はこれっきりにしろ」
 「いたずらなんかじゃありません」
 佳奈子は次に何か聞かれたら、どう答えようかと考えながら、ひとまずそう言った。
 ユウスケは、さらにイライラした声で「切るぞ」と言った。
 「え、だって、あなたがかけてきたのに、それは変です」
 「なにっ」
 「だって、そうでしょ、未来さん。何か用事があるからかけて来たのでしょう?」
 「あるか、そんなもん」
 「えー、用事も無いのにかけるんですか?」
 「おまえ、いい加減にしろよ。着信あったからかけたんだろうが」
 佳奈子は、何だか嬉しくなってきて、今度は、ふふふ・・と笑い声をあげた。
 面倒で相手にするのが嫌なら、着信があったからと言ってわざわざかけ直したりしないだろう。ましてや、着信拒否にしてもう二度とこの番号との交信を断ち切ることもできる。それをしないのは少なからず、相手にも興味があるからに違いない。
 「ムカつくやつだな、おまえ」
 「だって、未来さんとまた話せて嬉しいんですもん」
 「ふざけるな。それに、その未来さんとかいう訳のわからない呼び名はやめろ」
 「・・じゃあ、なんて呼んだらいいの?」
 「失礼なやつだな。おまえ、先に名乗れ」
 「・・佳奈子です」
 「こっちはユウスケだ」