長い一日がようやく終わった。
 みんなは出かける準備をするために地下鉄やマックのトイレに駆け込む。
 そこで着替えをしたり、化粧をしたり、制服のスカートを短くしたり、と忙しい。
 佳奈子は、そんな様子を横目にそそくさとそういうエリアから離れる。
 だからといってすぐに家に帰るわけではない。
 帰ったからといって何があるわけでもない。
 ただ、ここから早く離れたかった。
 
 地下鉄のホームのベンチに腰掛けるとケイタイを取り出した。
 未来への扉をノックしてみることにした。
 今は、まだ一方通行の扉だけど、鍵がかかっていて開かないわけではない。
 コールする。留守電になる。
 二回目、コール。やはり留守電になる。
 佳奈子は、ふぅとため息をついた。
 (やっぱり、ね。そうだよね) 
 でも、電源を切っているわけでも、着信拒否されているわけでもない。
 だったら、いつか気が向いたときに、また、この扉は開くかもしれない。
 佳奈子はケイタイをポケットに入れると、ぼんやりとホームの向こう側を見つめた。
 ここから向こうのホームを眺めると、こことは違う世界のような気もしてくる。
 こことは違う時間が過ぎているような気がするのだ。
 向こう側からこっちを見ている人たちも、そんなふうに感じているのだろうか。
 
 地下鉄のホームは、いつも暗い。時計を見なければ朝なのか、昼なのか、夜なのか、時間がわからなくなる。みんなもそんなふうに感じているのだろうか。
 ただっ広い時間が、さらにただっ広く感じる。