夜明け前

 「おはようごさいます」
 佳奈子は息を切らしながら、そう言って門をくぐった。
 一瞬、驚いたように立っていた教師がこっちを見た。
 今まで、挨拶などしたことがなかったから? 
 じゃあ、思い切って明日はにっこり笑ってみようか。
 そんなふうに考えると、佳奈子は少し愉快になってきた。
 こんなふうに、自分が主導権を取ることもできたんだなあと初めて知った気がした。
 
 結局、0時限には微妙に遅刻した。
 だから、教室に入ると一斉にみんなの視線がこちらへ集まった。
 ものすごく刺さるような視線。みんなには、そんなつもりは無いのだろうけれど。
 そして、それに追い討ちをかけるように教師の皮肉めいた言葉が後に続く。
 いつもは、少なからず、それに傷つく。自分に投げられた言葉ではなかったとしても、ひどく嫌な気分になる。今日は、いつもより平気だった。
 「遅刻だぞ。あと5分早く起きろ」
 遅刻なのは分かっています。それに、あと5分起きたって同じです。
 心の中ではそう言った。
 「返事は?」
 「はい」
 仕方が無いので返事をして席に着いた。
 席に着いた瞬間から、つまらない一日が始まる。
 まるで箱の中にきれいに詰められたリンゴのような、そんな一日。
 馴染めない環境。
 女子高だから? 
 お利巧さんばかりがそろっている学校だから?
そんなんじゃなく、そんなことではなく、なにか作られたような、裏と表のような毎日に息が詰まりそうになるのかもしれない。みんなにとって、ここは裏なのか表なのか。じゃあ、わたしにとって、ここは裏なのか表なのか。