お葬式が終わってしばらくは、
秋田でのんびりと過ごしていた。
近所の畑の手伝いをしたり
晴れた日には車で少し遠くの湖までドライブしたり
そしてもう二度と使われることのない食堂を
念入りに掃除した。

お客さんが座る椅子とテーブル
流し台や古いガスコンロ
メニューの書かれた札たち

最後に、看板をはずした。
看板がないだけでなんだか見慣れたはずの家が
いつもとは違って見えた。


「カホちゃんがおばあちゃんのお店を継げばいいのに」
近所の人にはよくそういわれた。

でもね、やっぱり私じゃだめなんだよ。
おばあちゃんが作るご飯は
おばあちゃんにしか作れない。
焼き魚定食も
きりたんぽのおなべも
あずきゆべしだって
どの料理も世界でひとつだけ
おばあちゃんだけが作れる味だった。
おばあちゃんがいなくなった今
きっとあの味には
もう二度と出会えない。

看板を外しながら
おばあちゃんの味に
おばあちゃんのお店に
私は「さよなら」を言った。