一か月前、
東京から、疲れて帰ってきたあの子は
心なしか少しやせているように見えました。

厳しい言葉で追い返してしまいました。
今思えば、そうしたのは間違いだったのかもしれません

本当は、抱きしめてあげたかった。
やさしい言葉で迎えてあげたかった。

けれどあの子にはもっと強くなってほしい。
私がいなくなるその日がきても
ちゃんと前を見て、自分の人生を歩めるように。


最近疲れやすくなったり
足が思うように動かなかったり
だんだんと体がいうことをきかなくなってきたのは
自分でも分かっていたのです。

特にあの子がいなくなってから。
それまでは私が果穂子を守らなくてはという思いで
多少の疲れは気力で乗り越えてきました。

けれど、あの子に会えなくなってしまった今になって
助けられていたのは私のほうだったと身にしみて感じるのです。


その日も店は賑わっていて、常連のお客さんが次々とやってきました。
お昼の二時を回る頃
近頃あまり寝ていなかったせいでしょうか
ふとめまいがして、しかし足に力が入らず
そのまま気を失ってしまったのです。

この病院にやってきて早くももう二週間が経ちます。
体がおかしくなる程働いていたのは
あの子のいない寂しさを忘れるためだったように思います。

一日三回の食事をして
許可されている範囲内を散歩して
あとは病室で何もせず過ごす毎日。

自分の体から、気力が消えていくのを
感じてしまうのです。


果穂子に会いたい
あの子の笑顔が見たい

けれど東京で頑張るあの子に
戻ってきてほしいという権利は
私にはないでしょう。

でももし、またあの子が私の前に姿を見せてくれるのなら
その時は今度こそ、温かく迎えてあげたい。