春が過ぎ…


ぽつりぽつりと六月の雫が見える頃


真梨子お姉ちゃんの結婚が決まった。


澄香は、
今も思い出す。


少し前の
ある日――――…



「あぁいいなぁ~

私もあんなウレディングドレス着たいなぁ」

テレビに映る花嫁をみながら真梨子は言う。

「あら真梨子。

なら、相手を見つけなきゃ」


「う゛ー…

お母さん…、

それは難しいわ…」


「どうして」


「だってぇ…

富士崎姓の男性が、
なかなかいないんだもんっ」


「えぇ?それはそうでしょうよ。
…?
どうして同じ姓を探すの」


「だってぇ、

名字変わりたくないんだもの…」


「どうして」


「……

私、一人娘だから、

私が嫁いだら、
お父さんやお母さんと名字違っちゃうし…」

「え?」

「とにかく!
私は、富士崎がいいの!」


そう言っていた、
真梨子お姉ちゃんの膨れ面を。


…―――――


それから数日後、

真梨子お姉ちゃんは、
彼氏を連れてきた。


彼氏の名は、淳一さん。

姓は、 立花さん。



一人娘の真梨子お姉ちゃんは、
父と母、そして、
自分という家族の存在の証に
少しでも長く
『富士崎』の名をこの名をこの世に存在させたくて、

夫婦別姓という形を
取ることを決めた。


真梨子お姉ちゃんは、
富士崎のままに



六月の大安

珍しい晴天の空の下


真梨子お姉ちゃんは、

純白で
とても綺麗な六月の花嫁になって、

お母さんの見守る中、
澄香の花束を受け、


淳一さんのもとへと
嫁いでいった。



綺麗な花が、

大輪に

眩しく光る…