謹賀新年



富士崎家にもだいぶ馴れた澄香。


「あっ澄香ちゃん、
起きた?」

台所で、正月料理を装っているおばあちゃんが、澄香に気付いて声をかける。


「はい」

澄香は、
おばあちゃんの方を向いて、正座をする。

「明けましておめでとうございます」


おばあちゃんも手を止め、澄香の方を向いて正座をする。

「明けましておめでとう」


「おばあちゃん」

「ん?」

「今年も
どうぞ宜しくお願いします」

「こちらこそ
宜しくお願いします」
おばあちゃんは嬉しくて、
澄香を見つめて
目をいっぱいに細めて微笑んだ。



澄香は、
おじいちゃんにも新年の挨拶をしようと、
おじいちゃんの仏壇の前に座る。


「おじいちゃん、
明けましておめでとうございます」


澄香は、
思い出していた。


この家へ来る前。


おばあちゃんが、
さくら園に来た帰り、
門に繋いだ子犬のリードを外しているおばあちゃんの
目から
一粒落ちた涙を