可笑しいな、此処では無心になれる筈なのに…――



「最近、通い詰めだし…どうした?」


「色々、心中が煩わしいかもしれません」


「ハハ、コッチは有り難いけどな」


閉店間際の店内は平日ともあり、俺1人だけ。


グラス片手にカウンター席へとやって来た彼は、ニヤリと笑って尋ねてくるが。



“心中が煩わしい”

この一言がピタリと、今の心境に嵌まると思った。



年齢層の高い店内の雰囲気と、落ち着いたジャズの調べがとにかく心地良い。


何時しかマスターとも、彼に余暇が出来た時は話すようになっていた。



「まぁ、イイ男は仕事もプライベートも大変だ」


「どうでしょうね?」


「クック…色男を悩ませる子を見れるのは、果たしていつかな?」


表情に出していたつもりは無かったが、彼にはどうも敵わないらしい。



笑い飛ばすマスターの顔立ちは、相当な武勇伝を持っている筈だけど…?