ダメだよ。無用な期待を持つなんて…―――


彼から逃げたくてカクテルを飲んだのに、余計に心が高鳴りを覚えて仕方ない…。




「なぁ、鈴・・・
このカクテルの意味、知ってる?」


「え…、し、知りません」


「今の鈴にピッタリだと思って、敢えてファジー・ネーブルにしたんだ…」


首を傾げて答えれば、彼がフッと笑って私の髪をヒト掬いする。



「あ…、あの…?」


触れた先から電流が走るように、胸の高鳴りが止まらない…。



“今の気持ち”って、どういう意味?


優しい眼差しを向けてくる彼の瞳に、問い掛けようとしたのに…――



目が合ったその刹那、私の肩に手が回されてグイッと強く引き寄せられた。



「どうすれば良いか…、鈴は戸惑ってるよな?

上司の本心はおろか、自分の気持ちも不確かで」


「っ・・・」


心を見透かされたのかと思うほど、核心を突かれてドキリと跳ねた心臓。



落ち着いた所作に潜む、妖しい声音に捉われた…――




「その曖昧さは、俺が全部取り払うよ。

鈴…、お前が好きだ――」


「か、ちょ・・・」


彼から放たれる、濃厚なウイスキーとオリエンタルな香りが混ざり合って。


ソレらは私を、一気に酔わせてしまう…。