カクテルが作られる間、課長から何かを聞かれては頷くだけの私。


情けないけど、ソレが精一杯だった。



横顔からも伝わる清涼さと、心地良いテノールの響き、そして甘くて妖しい笑顔。


仕事中とのギャップを発見する度、さらに鼓動が加速して。


オフの彼を知る度、もっと知りたいという気持ちが増していた…。




「ファジー・ネーブルでございます」


「うわぁ、キレイ!」

スッと差し出されたソレに、思わず感嘆の声を上げていた私。



タンブラーに優しい色を添える液体、その縁には飾り付けのオレンジ。


見た目は、あまりジュースと遜色ないけれど…。



「ファジー・ネーブルは、ピーチリキュールベースのカクテルなんだ。 オレンジジュースの配分が多いから、アルコール度数も低いしね。

まぁ…酔っ払っても、安心しろよ?」


「なっ…、だ、大丈夫です…頂きます」


隣からの説明にドキリとした私は、慌ててグラスに口をつけた。



“安心しろよ?”のフレーズが、物凄く妖しい響きに聞こえたせいで…。