どうして…、此処にいるの――?




「出ていったきり戻ってこないから、大丈夫なのか心配してたんだ」


そう一笑すると、目を見開いている私の顔を覗き込んできたから。



「・・・っ」

グイッと一気に縮まった距離のせいで、思わず息を呑んでしまう。



「うん…、良さそうだな」


フッと笑った彼がひとつ頷いたあと、すぐに距離は開いたけど。


イタズラめいた眼差しを向けられては、上手く呼吸が出来ずにいたの。



何処か危うい瞳が強力すぎて…、厳しい課長のギャップを垣間見てしまったから。


ほんの一瞬の間に、私は彼に囚われていたと思う。



彼こそが上司の、稲葉(イナバ)課長…――



暫く流れる沈黙も、ガヤガヤと煩い筈の居酒屋内も、また彼に魅せられる材料でしかなく。


ジッと見据えていた課長が不意に、私の頭に手を置いてひとつ撫でてくれた…。



「送るから帰ろうか?」


「え、でも戻らなきゃ…」


もう戻る気も無く、サボろうとしていたクセに突然の言葉に動揺して。


部員が騒いでいるであろう部屋へ、視線を向ければ。



「・・・わっ!」


その刹那、グイッと強い力で前方へと左腕を引っ張られてしまった。