泣いている暇なんかない。



そんなことをしている暇があるなら早く。


早く…。



滲んできた涙を拭う。


そしてきゅっと唇を噛む。



「…拉致しますっ!」



あたしがそう言うと、誠くんはブハっと噴出して、



「どうぞ?」



そう言って差し出される手。


あたしは少し迷いながらもその手を握る。



そして誠くんが言ったように、あたしは〝無理やり〟誠くんの手を引っ張った。



駅へと走り出す足は今までにないくらい軽かった。