「も、もしかして、棗くん……」


「だぁーっ!言わせんなバカ!」


「ごご、ごめん!」


棗くんの顔を覗き込んでみて、びっくりした。

顔は真っ赤だし、耳まで真っ赤。
それを隠すように両手を耳に添えている。


「…棗くんって…意外……」


「はぁ?」


真っ赤な顔のまま私を見つめる。

そんな棗くんにニコッと微笑む。


「俺様だったり紳士だったり可愛かったり、棗くんっていろんな顔持ってるんだねっ」


ほんと意外。
棗くん、もしや、多重人格…!?


「…おい」


「ヒッ!」


思わず変な声が出てしまった。


そう、さっきまで真っ赤だった棗くんが、今は口の端を吊り上げて私を見下ろしている。


しかもさっきの”…おい”はかなり低い声だったし…



い、イヤな予感しかしませんっ!!



思わず後ずさりしてしまうほど不気味だった。

もちろん棗くんはジリジリと近づいてくる。



しかし、「そんなことしても無駄」というかのように、あっという間に壁へ追い込まれてしまった。