いきなり大きな声で叫ぶんじゃないかとか、物を投げるんじゃないかとか




そんな目だった




それでも先輩は動かずゆっくりまばたきしている




春に入りかけの生暖かい日射しが気持ち悪い




少し開いた窓から冷たい風が流れてくる





植物の匂いがしたのはきっと夢子さんが植えている花の匂いだろう





「私、先輩のために何か出来ること、ありますか?」





やっと絞り出した言葉が空気中に浮いている気がした





返事がない先輩を見ると、寝ていた




ゆっくりのまばたきも、そのせいだったのかな




喋っているときはまばたきしていたのに




泣いたしお腹いっぱいだし疲れてるし、当たり前か





頬杖も崩れて腕を枕にして寝ていた先輩を横目に部屋を出た






私に出来ることって、先輩の邪魔にならないようにすることなんじゃないのかな




夢子さんとおじいちゃんにお礼を言って先輩のお家を出た




おじいちゃんが送ってくれようとしたけど、歩きたい気分だったからお断りした





久し振りに音楽を聴きながら歩いた



低い声がなんだか私に響いた



泣きながら叫んでいるような歌声が辛かった




風景が木ばかりの道をひたすら歩いた




この道を歩いたことがあるかどうか、わからなかった




脚が勝手に動いているような感覚だった