カツン、カツンと静かな足音が真っ暗な廊下に響く。



どこかで開いているらしい窓から、冷たい風が吹き抜けていくのを感じて、私は肩を震わせる。



視線をふと窓の外に向ければ、そこには闇色に染まった空があって、その中にあるやけに大きな蒼い月が、とても輝いて見えた。



思わず足を止めて、その蒼に向かって手を伸ばす。




「綺麗――…。」



この月は、あの人みたいだ。



どんな暗闇の中でも、変わらない輝きを放つその姿は。


それ故に、私の手が届くことは無いけれど。



その代わり――…




「懺悔でもしてるつもりか?」




背後から聞こえてきた笑い混じりの低い声。



聞き覚えのあるその声に、私は伸ばしていた右手を元の位置に戻した。



「いつから見ていたの……千景。」



体の向きを変えて、その人物を横目で見つめてみれば、



千景(チカゲ)と呼ばれた青年は、妖艶の笑みを浮かばせて、じっとこちらの方へと視線を投げかけていた。







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