――――これが、あの日彼と交わした契約なんだから……



遠い昔のことを思い出しながら、私はふわりと、小さく笑みを浮かべた。



そして、もうすぐ響くチャイムを心の中で数えながら、瞳を閉じて、授業終了を静かに待つ。



これが終わったら、昼休みだから奏也様の所へ行こう。



そんな思考を遮るような、コンコンと響いた窓ガラスを叩く小さな音に、私はゆっくりと外に目を向ける。



「やっぱ、無理……かも。」



誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた後、空中に浮かぶ悪魔と瞳が合う。



それも下級悪魔とは違う、中級悪魔が現れるなんて。



『悪魔』という存在は、階級の高い悪魔ほど、この世のものとは思えない美しい姿をしている。



特に上級悪魔は、下級・中級とは比べものになどならない強さを誇っていて。



その強さは、私達守護者でも、出会ってしまったらすぐに逃げ出す方法を考えた方がいいくらいだ。



「…って、今はそんなこと考えてる暇なんてないか。」



問題は、窓の向こうのあの人。



と、長い髪を風に靡かせて、ニヤリと微笑む女の中級悪魔に、私は思わず顔をしかめた。



それとほぼ同時、校舎内に響き渡るチャイムの音をスタートの合図に、騒がしい教室を後にした。






.