カベの向こうの女の子


しかし気づいていたとは言えども、林道からわざわざ言われるなんて…




これは確実だな




林道はなぜか弱々しく言った



「気を付けてね。ごめんね…」



いつものハキハキと元気な彼女らしくもない



俺は不思議に思った



「林道がなんで謝るんだよ。それに林道って、須釜と仲良いらしいな。付き合ってんの?」




意地悪なことを言ったとは思ったものの、彼女は想像以上に不愉快そうな顔をした



「何言ってんの!違うよっ、最低」



彼女のそんな顔は初めて見たから、少しびっくりした


まさか最低呼ばわりまでされるとは、心底触れてほしくないことだったらしい



「悪かったよ、ごめん。」


俺が謝ると、彼女は口をへの字に曲げて窓の向こうをむいてしまった



俺は機嫌を損ねてしまったことを反省しながら、彼女の後頭部を見つめた




影ができるほどの長いまつ毛が、まばたきで上下に動く




少ししてから林道はぱっと髪を揺らして、こっちに振り向いた



そして大きな目を輝かせて笑った




さっきの不愉快そうな顔とは、あまりに違うから、俺は驚いた



「ね、荒木。見て、飛行機雲っ」






彼女の人差し指が指すほうには、ペンキの水色をした空に、にじんだ白い細長い雲が見えた