カベの向こうの女の子




「なんの話し、してんだよ…」



須釜は顔をこれでもかってくらいに歪ませた



憎らしさで拳を震わせている



そこでロングヘアーが俺にぽそりと言った




「その子、あんたのこと好きだったんじゃないの?」


俺はロングヘアーの大きな瞳を目を丸くして見た



須釜にも聞こえていたらしく、「知らなかったのかよ」と喚いている



俺は小さく息を吸い込んだ












"美しい笑顔"…



なんて本人に合った名前だろう、担任の教師がそう林道を誉めていたのを覚えてる



名は体を表すというが、林道はまさしくそれだった


ハーフのような顔立ちで、大きな黒目がちの瞳が細くなると、泣き袋がぷくりと浮き上がる



それと同時にえくぼができて、場を和ませてくれた



そんな彼女は入学そうそう、男子の中で話題の中心になった




美人な上に、愛嬌があって彼女の笑顔にノック・ダウンした男は少なくなかったはずだ



千秋もかなり彼女を気に入っていて、いつもうっとりと林道を見つめていた




彼女の存在はあっという間に学校に広まり、指折りのかわいい女子に名を馳せた




少なくとも、地が笑顔の明るい彼女を嫌いな男子はいなかったろう