教師は黒髪を揺らして、真顔から少し顔が緩んだ
「ああ、吉永だろ。吉永愛…」
「たぶん、それ」
俺はぶっきらぼうに言った
それから、上着から手が出ないように袖を伸ばした
今の季節、少しでも長く外にいると手なんかすぐかじかむ
立ち話なんかとんでもない
「吉永とも面識あるのか…。でも、吉永のことじゃあないよ。藤原のこと」
それを聞いて、俺はなんとなく体全体が力んだ
「なに」
「藤原のこと、助けたんだって?」
「…ああ」
なにをいまさら、と思う
あれから随分たった
3ヶ月くらい前なのに、もうずっと昔のように感じる
ずいぶん旬じゃない話題だ
「いつかは悪かったよ。うちの生徒が失礼なこと言ってさ」
俺より年上だっていうのに、なんだか若々しいような爽やかな声を出す教師だ
俺にとったら、感じが悪い
「別に、今更」
教師の顔をチラッと見ると、また真顔に戻ってる
「1つ聞いてもいい?」

