――昼休み

わたしは一人屋上に続く階段に腰掛けてお弁当を食べていた。おばあちゃんが作ってくれるお弁当。

うちは母子家庭でお母さんは日中働きに出ているから、わたしの世話はもっぱらおばあちゃんがしてくれた。おじいちゃんはわたしが生まれる前に亡くなってたし、父親は知らない。
正確に言えば物心つく前に、お母さんは離婚していて、わたしはぼんやりとしか父親の姿を覚えていない。
唯一記憶にあるのは父親がよく吸ってたタバコの香り。お母さんには体に悪いっていつも怒られていたけれど、父親はわたしを公園に連れていくのを口実に、よく公園のベンチでタバコを吸っていた。
ぼんやりとタバコを吸う父親は、まるで男の姿で、わたしは幼いながらその側に行きたいと思ったのだった。

そうするといつも「帰りたいのか?」と聞いてきて
わたしを肩車した。
そしてわたしは父親の髪の毛に染み付いたタバコの香りを嗅ぎながらしっかりとしがみついて家に帰っていた。

そういえばあなたもいつもタバコの香りに包まれていたね。
お母さんが仕事から帰った後、家庭教師の日はいつもわたしの部屋に臭い取りスプレーを必死になってかけていたっけ。

なんて思いながらもそもそとお弁当を食べる
恵は昼は彼氏と一緒。恵の彼氏は理科の教員。だからせめて昼休みくらいは一緒にいさせてあげたくて、わたしは一人ご飯を食べている。
恵には一応中学の時の同級生の名前を出して、その子と食べてることになってる。
多分気づいてるけど、何も言わない。だからわたしと恵は上手くいく。不必要にお互いに深入りしない、でもわたしはそれも優しさだと思う。

お弁当を片付けると、わたしは階段を上り屋上に出る。
屋上の入り口は鍵がかかってることになってるけど、それは夜だけで昼は大体空いてる。
そしてわたしはそこで一服。
タバコを始めたのは半年前くらい。あなたに会える回数が減って、わたしはその香りでさみしさを埋めるようになった。
「もう辞めないとなぁ」と思いながらタバコを吸っていると

不意に屋上の入り口が開いた。