「陽生……、来週からまた仕事でアメリカに向かう。もう日本には戻らないつもりだ。日本での経営は全て真咲に任せることにした。だからお前もお前で自分の決めた人生を心行くまで突き進んだらいい」



「えっ」



「それに……勘違いするな。俺は別にお前を本気で邪険にしてたわけじゃない。手荒な真似はしたが、お前には後悔のない生き方をしてほしいと思ってる。それが例え他人からは理解されなくてもな」


「―――」



信じられなかった。


まさかお父さんがそんなことを言うなんて…


これは……夢?


私が勝手に作りだした都合のいい夢なんだろうか?


私は手に持っていたバッグを力なく地面に落とし、そして陽生は目を見開いたままとても小さな声でぽつりと嘆く。



「…親父……」


「まぁ、せいぜいそこのお嬢さんと納得がいくまで一緒に歩んでいけばいい。その代わり自分の選んだ人生だ。最後まで責任もってまっとうしろ、私みたいに途中て投げ出す真似だけはするんじゃない、いいな」



それは半分嫌味のようにも聞こえたが、決して私達を批難するセリフとも思えなかった。


初めて、お父さんの誠意を感じた瞬間。


とても分かりにくいけど、父から子へ、お父さんから陽生に向けたささやかな優しさのようにみえた。