「私、こんな風にちゃんと間近で海見たの初めて……かも」
海とはまるで無縁な人生だった。
全く興味なんてなかったし、ましてやこんな風に連れて来てくれる人なんていなかった。
正直テレビや写真でしか見たことがなかったぐらいだから、このキラキラと輝く光景を目の前にして感動せずにはいられない。
「少し歩こうか」
そう言われ、陽生と手を繋ぎながら夕日が沈む海岸沿いをゆっくりと歩く。
ザクザクと響く足音。後ろを振り返れば2人分の足跡がくっきりと跡ずいていて、なんだかそんな当たり前のことでさえ気分が高揚してしまう。
「海ってこんなに大きかったんだぁ」
「ふっ、そんなこと聞かれたの初めてだな。連れてきたかいがあったよ。なんなら今から中に入る?」
「えっ」
「嘘だよ。こんな真冬にそんな危険なことしないよ。万が一お腹の子に何かあったら大変だ」
緩やかに笑った陽生が私の手をぎゅっと握る。
「来年また一緒に来よう。今度は家族3人で、果歩の水着姿楽しみにしてるから」
「……うん」
夕日に照らされる陽生の横顔が赤色に染まっている。
そして伏せ目がちに落とされる切れ長の瞳。
話す度に上下する喉仏がとても男らしく色っぽくて
そんな陽生の横顔に思わず言葉に詰まり、一瞬歩く速度を落としながら真剣に見とれてしまった。



