「何だ、そんなことか…」
ようやく手を止めた親父が無表情で顔を上げる。
「あ?そんなこと?」
目が合った瞬間、ピキッと額に筋が入ったのが分かった。
人の人生勝手に決めておいて、そんなこと世張りとはいい度胸じゃねーか。
「何だ、別にそんな大したことでもないだろう。彼女はちゃんとしたところ出のお嬢さんだし、それに、私の昔からの友人の娘さんだ」
「ああ、らしいな、でもだからっていきなり結婚はないだろう。何がどうなったらそんな話になるんだよ!」
先月、親父とその友人との食事会の時にたまたま居合わせたらしい彼女。
いったい何の縁なのか、俺の親父と知り、ダメもとで俺との結婚を申し込んだ末、それを親父が呆気なく許可しやがった。
「冗談じゃねー、今すぐ全部撤回しろ!」
何が結婚だ。
本人の意思無視して陰でこそこそしやがって。
昔から何考えてるのかさっぱり分からない人だったけれど、まさかここまでとは…
非常識にも程がある!



