「何の事だ」
「しらばっくれてんじゃねーよ」
しらっと返ってきた声に、俺はさらに低い声を出す。
そして、昨日彼女に告げられたことを思い出し、鋭い苛立ちを向けた。
「婚約ってどういうことだよ、何の真似だ。人の人生勝手に決めてんじゃねーよ」
言いながら、イライラが込み上げてくる。
昨日彼女から聞かされたこと、それは俺と彼女との結婚話だった。
しかもそれが一か月前の話しって馬鹿げてるのにも程がある。
「何が結婚だよ。本人の意思無視して勝手に話し進めやがって!」
会ってもないのにいきなり結婚って、おまけに向こうの親にももう了解済みって、どういうことだ?
こんなふざけた事があってたまるかよ!
苛立ちを抑えきれず、目の前の親父を睨みつけると、すぐに面倒くさそうなため息が飛んできた。



