「……果歩?」


「あ、うん、今帰ったみたい…」



私、今ちゃんと普通の顔できてるよね?


引きつってない?


陽生に言葉を返しながら、私はなるべく自然に笑顔を作る。



「ふ~ん、そっ。兄貴なんか言ってた?」


「えっ…」


「いや、何も言われてないんならそれでいいんだけど……って、ん?耳どうかしたのか?」


「ううん、別に」



そう首を振るのがやっとだった。


だって、どうしてあんなことを言ったのか分からないけれど、でもなんか、狐につままれた


そんな気分――…




「それより陽生、お腹すいた」


「えっ、ああ、そういや何も食べてなかったよな。ん~じゃあ今からどっか食べに行くか?」


「うん」




“早く別れた方がいい”だなんて、そんなの何かの間違いだよね?


私の聞き間違い、だよね?


うん…



きっとそうだよ……ね?



私は心の中で必死に頷き、なるべく笑顔を壊さないようにリビングへと足を進めた。