(葛藤と譲れない思いーSide陽生ー)
気がつくと、目の前の果歩をぎゅっと抱きしめていた。
怒りながらポロポロと涙を流す果歩。
薄暗く、はっきりとした表情までは分からなかったけれど、
……でも、俺を睨むその瞳には精一杯の愛情が込められていて、その姿に自分の手を差し伸べずにはいられなかった。
「当たり前だろ、誰が別れるって言ったんだよ」
胸が締め付けられるように痛かった。
背中に腕を回し力強く引き寄せると、果歩が慌てたように顔を上げる。
「や……」
「俺だってお前と離れる気なんてねーよ」
抵抗しようとする果歩の動きを止めるようにそう言った。
「今更居なくなられたら困るのは俺の方だ」
視線が合った目の前の瞳をじっと見つめる。
そのまま右手を背中から頬に移動させると、ポロリと新しい涙か零れ落ちた。



