「果歩」
それでも反抗する私に、陽生が一つ重い息を吐いた。
少しの間そんな私を無言で見ていたけれど、そのあと諦めたのか、すぐに正面から私を抱きしめて、もう一度耳元にそっと口を近づけてきた。
「分かった。じゃあ、もう時間がないからこのまま話だけ聞いて」
そう言ってそのまま低い声を向けてくる。
「今日はあまり果歩と一緒にいてやれない。ていうより俺、もう行かなくちゃいけないから」
「えっ……」
思わず顔を上げようとした瞬間、陽生が私の後頭部を少し強めに押さえつけてグイッと胸に押し当てた。
「この後静香が此処に迎えに来てくれるから、会場には静香と一緒に来い」
「し、静香さん……と?」
「ああ、ごめんな。本当は一緒に行きたかったけど、色々とやることがあってな。どうしてもダメなんだ」
陽生があやす様に私の頭を優しく撫でる。
胸から響いてくるその声がすごくすまなそうだったから、何故だがドクンと嫌な感じがした。



