「あ、違うのよ、そんな、君が心配する
 ようなことは、全然ないのよ?」

こんな寂しい海岸でひとりで座って歌っ
ていて、この少年にてっきり入水自殺か
と誤解されてさっきからずっと様子を
見られていたらしいと気づいたネコガー
ルは、大慌てで弁解する。

そして、ネコガールと少年の目と目が
ぴったり合ったその時、ネコガールの
身体にビリッと電気が走った!

ネコガールはこのとき直感したのだ。
この少年は自分に何か関わりのある、
重要な意味をもつネコだということを。

思わぬショックに、いっぱいに黄色い
目を見開いて少年の顔を見つめるネコ
ガールの異様さに、少年は逆に驚き、

(この人、大丈夫かな?)

とますますネコガールを心配して
しまう。

少年はシャルトリューで、基本は黒に
近い体毛だが、光の当たり具合によって
色が変わって見える。
美少年と言っていい、端整な顔立ちだ。

背には、剣道の竹刀でも収まっている
のか、細長い布袋を背負っているようだ。

ネコガールは海水に手を浸すのを諦めた。
今また海に近寄ったら、この少年が何と
考えるか分からない。

剣道か何か分からないが、武道で鍛えら
れたらしい、少年の注意深い黄色い目は、
ネコガールの動きを油断なく観察して
おり、少年の引き締まった顔からは、

「オレの目の前で自殺なんかさせない
 ぞ!」

という、剛毅な少年らしい決意が見て
取れた。