昔泳いだ海岸はどこなのか分かるわけも
ないし、三浦半島ならどこでもよかった
のだが、適当に車を走らせているうちに、
半島のだいぶ先まで来てしまった。

このあたりで海岸を歩いてみよう、と
ネコガールは愛車を止め、どこだか知ら
ないが適当に選んだ、相模湾に面した
岩だらけの、ちょっと砂浜のある海岸を
ひとり歩いた。

正午過ぎの真夏の光がゆらゆらと歪ませ
る大気の向こうに、海越しに富士山が
そびえている。

ネコガールはちょうど目についた平らな
岩に腰かけ、日本一の霊峰をぼんやりと
眺める。

最近若者にヒットしている、倉本ミイの
「Would you please catch the
 lion?」
(そのライオンを捕まえてもらえます
 か?)
の歌詞を口ずさみながら、冷たそうな
海の水にちょっと手を浸してみようと、
すっと立って、ネコガールは波打ち際の
方へゆっくり歩いていく。

「ちょっと、お姉さん!!まさか自殺
 するんじゃないよね!?」

突然後ろからかけられた大声に、心底
びっくりしたネコガールは、反射的に
後ろを振り返った。

そこには、黒い学生服を着た、高校生
くらいの男の子が立っていて、ネコガー
ルの顔を心配そうに見つめていた。