その手紙はある女子中学生からのもので
あった。

その子は子猫のときからバイオリンを
習っているのだが、いくら練習しても
コンテストで入賞することができず、
もうバイオリンをやめようかと悩んで
いるとのことであった。

こういう声を放っておかないのがネコ
専務である。ネコ専務はその子の個人
レッスンを引き受けることにした。

授業料は一時間100円であるが、これ
は、少しでも自分のおこづかいから金額
を負担させた方が、練習に身が入るだろ
うという狙いである。

レッスンを始めてみると、その子は決し
てバイオリンが下手ではないと分かった。

ただ、小心なのでコンテストではすっ
かり緊張してしまい、うまくいかないの
である。

そこでネコ専務はこうアドバイスした。

「ネコが聴いていると思うからいけない
 んだ。サンマが聴いていると思えば
 いいんだよ」

女子中学生がそうしてみると、少しずつ、
人前でも緊張せずに弾けるようになって
きた。

その子はサンマよりもアジの方が好き
だったので、「アジが聴いている」
と思って弾いてみると、ますます良く
なった。

こうしてレッスンは1年続き、その子は
ついに全国中学生コンテストで3位に
入賞したのであった。



レッスンは終わった。その後ネコ専務の
ところに年2回届くようになった、年賀
状と誕生日カードは、ネコ専務にとって
大きな喜びである。
            おしまい