―第二話―


 鏑木家は代々広い土地を持った家で、立派な館の奥には神事に使う道具を入れる蔵があった。


 蔵へはばあさまが持っている黒い鍵が無くては開けられないし、外からも見えない。


 それで、鏑木家は村の行事には、特に、神社から預かっているという神輿を管理するのに大きな役目を担っていた。


 まず、村の神事にはすべからく、文句を言いに会合に加わるのが常だった。




 鏑木のおじさんは家長として申し分のない働きをしたが、若い世代はそれを馬鹿にする。


 本家の多留美(たるみ)ちゃんは十七歳。


 反抗期を含めた思春期も交じってる。


「今時ねェ、家長ってなんなの? なんで分家の子と遊んじゃいけないの?」


 いとこ全員がそういうが、鏑木の家には代々家長だけが守ってきた秘密があった。


 大人の誰もが蔵には近づくなと言う。


 しかしそういうことに限って、子供は気になる。


 むしろ、けしかけられてるように鏑木正則は思ったという。


「ねえまさくん、蔵の鍵なんて、使い方もわからないのに、それにじいさまに見つかったら」


「開け方は知ってる。それよりたるみちゃん、誰か来ないか見張っててね。親父が神主と来て確認しにきたとき、見ちゃったんだ」


 彼は見た。


 彼女も見た。


 御神輿を奉納してある蔵の中で。


 真っ白な髪を振り乱した、死に装束の老婆の姿を。


 二人ともピクリとも動けなくなっていた。


 蔵の入り口から奥へと向かって檻がある。


 どうせ、こちらへは来られまい。


 二人のどちらともなく唾をのんだ。