携帯の向こうから、比較的冷静になった鏑木兄の声がしたので、電話に出る。


 しかし、内容がまともではなかった。


『なにやら面白いお供えの話だが、それで赦されたんだろうな』


「ああ……多分、そうだといいんだけど」


『フン! くれぐれも連れてはくるなよ! じゃあ、大学の後輩に迎えに行かせる』


「大学の後輩って、望月ジョーさん?」


 肯定の意味のようなことを言って鏑木兄は、一方的に電話を切ってしまった。


「やった、あのひとならまともに対処してくれる」


 兄はと言えば、今頃鼻歌でもさせながら、語りの舞台をセッティングしてるに違いない。


 望月 定(もちづき さだむ)君にあれこれと指示を出しながら――


「な、なあ……連れてくるな、って霊のことか?」


「ああ、兄貴霊媒体質で、とりつかれたことがあって――倒れる人なの。ネタ好きなのに」


「気の毒だな……今度のオレっちたちみたいな経験がいっぱいなんだ」


 いいや……本当に気の毒なのは君たちのこれからなんだよ――とは言えない鏑木弟であった。



―第三話、終わり―