鏑木は、いつもピントがずれてるので、いちいち言葉に出さなきゃ理解しない質だ。


 そして、自分もあまさず考えを述べてくる。


 すこしうるさいが、わかってくると付き合いやすい。


「オレっち虫除けスプレー無いと駄目なんだよね。特に蚊とか」


「血がうまそうだもんな」


 と堀田が情け容赦なく切る。


「おまえもそう思う? いやー、ガッコのわら半紙で指先切ったとき、ナメときゃ良いと思って口に入れたのね、その指を舐めたら……うまいんだよ。塩味が効いてて、マイルドっつーか……オレっち人間国宝?」


 今更鏑木のボケには付き合いきれないハズの二人まで、ここはつっこまずにいられなかった。


「黙っとけ。病院、連れてかれるぞ。それと、人間国宝の意味が通らない」

「おまえ、よく犬に顔だの手だの舐められまくってるけど、ありゃ、なつかれてんじゃなくって味見されてるんじゃねえの」


 鏑木はハッとして、


「そうかも。近所のももちゃんも、丈太郎君も、みるくちゃんや、大和君に至るまで……オレっちの身体を狙ってたのか?!」


 ショックらしく、半ば叫びに近い声で絶望を訴える。


「あーもー、どーでもよくなってきた」


 親友とはいえ我慢の限界ももはや超えた、という東雲。


「考えろ。あいつのアレは今始まったことじゃない」


 堀田は、なにがと言って大げさなことがキライだ。


 今も、鏑木のどうでも良い嘆きに付き合っているのは一重に、つきあいが一番、長いからだ。


 うんざりとした格好で堀田、自分の全身を見回す。


 ねずみ色のパーカがジョブジョブだ。


 あたりには蛍の死骸が多く散乱していた。


 ウィルオーウィスプの正体である。


「む、つまらぬモノを殺してしまった」


 なにやらアニメチックに苦悩する堀田。


 彼は普通より子供受け番組を卒業するのが遅かった。


 なので、こうなる。


「最悪な――おまえって」


 火に油を注ぐような言動は、この際だからもう、鏑木の十八番ということにしておこう。


 もう、それしか方法はないと思われた。