「香絵、俺たちは…」

「いやっ!! 聞きたくない!!」

耳を塞ぎながら頭を振って叫びだす。

見てるだけで心が張り裂けそうになる姿だった。

でも……

「ッ…香絵!!」

「!!!」

俺が強く呼ぶと、ようやく動きを止める。

「香絵、聞いてくれ…」

「圭太ぁ…」

涙目になってはいるが、もう逃げようとはしなかった。

俺は香絵の肩を掴んで言った。

「俺たちはもう、一緒にいられない」

「…………」

「俺は今日、このあとすぐ東京に行く」

「…いつまで…?」

「引っ越すんだ。たぶんもう帰ってこれないと思う」

そう告げると、香絵の両目からは大粒の涙が流れた。

「俺は向こうで夢を叶えるために頑張るんだ。だから…」

…香絵は何も言わなかった。いや、言えなかったのか…。

「っ…じゃあ、もう行かなきゃ」

そう言い残して逃げるようにその場を去った。

香絵は泣きながら俺のあとを追ってくるのが分かったが、それでも振り返らなかった。

わざと人混みに入って走った。

走って、走って、気がつくと、くるときに通ったあぜ道を歩いていた。

涙が溢れてくる。

堪えていた涙が、まるで決壊したダムのように流れてきた。

「…っ香絵…香絵!!」

愛しいその名を呼びながら、声を殺して泣いた。

香絵…ずっと好きだった。

この想いはいつか、必ず伝えるよ。

俺は、この夢を叶えて見せるから。

だから…それまで、待ってて…。




さよなら。