香絵は何度も俺の話しを遮って喋りだす。

まるで俺の言おうとしていることが分かって、それを邪魔するかのようだった。

必死に笑っている。そんなふうに見えたが、ただの気のせいかもしれない。

「確か6時に会場で待ち合わせだったよね?」

「…ぁ、あぁ」

「早く行きたいなぁ~あ、あたしこれから晩御飯つくんなきゃ。また明日ね!」

「あぁ…また明日な…」

…言えなかった。

話せば話すほど香絵がどんなに楽しみにしているかが、目に見えて伝わってくる。

俺のほうも…せめて少しでも長く一緒にいたい。

別に断らなくたっていいじゃないか。

…そんな思いが溢れてくる。

昨日の夜決めたのに。

未練が残るから会わずに行くって…

明日、一緒に夏祭りに行って、そして全て打ち明けるということも考えた。

…けれど…怖くて出来ない。

この間香絵の部屋でみた夢…

香絵が泣きながら俺を探している夢。

もし打ち明けたらあんなふうに泣かれるかもしれない。

そう考えるとどうしても出来ない。

告げずに発ったとしても泣くかもしれないが、それならまだ泣き顔を見なくて済む。

…はっ……

思わず自嘲の笑いが零れた。

最低だな、俺は。

「明日…どうすっか…」

夕焼けで赤く染まった空を見上げて息を吐いた。

結局断れなかったんだ。行くしかない。

「本当に明日で最後、なんだよな」

なんだかそんな実感が湧かない。

今までずっと一緒にいたからな。

俺は一度香絵の家を見た後、自転車を押して自分の家に入った。