だから…香絵と付き合うわけにはいかない。

香絵はおそらくこの町に残り、この町の大学に進学するつもりだろう。

遠距離恋愛はきっと無理だ。

この夢は、そんな生半可な覚悟で成し遂げられるような甘いものじゃない。

歌手になることに全てを捧げるつもりで…

この町に未練なんて残さずに…

全力で追いかけなきゃいけないんだ。

…香絵には悪いけど、明後日の夏祭りは断ろう。

そして、何も告げずに発とう。

会うと別れが辛くなるから…

もっと一緒に居たかったって未練が残るから…。

ギシッ

俺はベッドから離れ、今から詰めれる荷物をまとめ始めた。

…まだ卒業してないからな…転校ってことになるんだよな?

教科書は同じのでいいのか?

この制服は…もう着れないんだな。

二年と約半年間着続けた制服を綺麗にたたんでそっと撫でた。

あとは…何持っていこうか…

机の引き出しをガラッと開けてみた。

すると…

カサッ

なにか紙が擦れるような音がした。

引っ張り出してみるとそれは、けっこうな厚みのある封筒だった。

何だ? こんなのあったっけ?

中身を出してみると、

「写真だ…」

そこに写っていたのは、幼い頃の俺と香絵だった。

なかには優とのスリーショットや、俺と香絵の両親と一緒のものもあった。

昔一緒に行った夏祭り、海に行ったとき、山にキャンプに行ったとき。

そして香絵を泣かせてしまったときや、優と大喧嘩して香絵が止めようとしているときの写真まであった。

「ふっ…俺らすげぇ顔…」

気づくと、自然に笑みが零れていた。

この写真どうして今まで見つけられなかったんだろう。

確か昔、写真なくしたって騒いだときがあったのに…